2013年11月17日日曜日

【『俳壇』12月号より②・(劇薬)詩のメッセージ性】

〈師走・年の暮を詠むー実力派俳人55人


・メモ紙片机辺に増ゆる師走かな            佐怒賀正美


・亡き人のものが沢山十二月              鈴木節子


・正月にペンギン歩きしてはだめ            坪内稔典


・濡れ岩をなおかつ濡らし初日かな           中村和弘


・埋火や貧しき父の子と思ふ              富士眞奈美


・年の市まぶしきものの売られけり           藤本倶子


〈同行二人…ふたりで五十句『メデジンの秋』夏石番矢〉


…初学の方は読まない方が良いかも知れません。劇薬です。まずは基本が優先です。

しっかりとした定型句が詠める中級以上の方向きかと思います。

定型は一句のみで、それも無季です。

また中八や下七・八が目立ちます。

私には似すら出来ません。

しかし今回はあえてそこに注目してみたいと思います。

これらの前衛的な(非定型的な)俳句の配列に疲労感を伴います。
しかしこれらは一塊となり、匂い立つような強烈な「メッセージ性」を放っています。

もちろん俳句は「メッセージ性」と「音楽性」の両輪がうまく連動することが好ましい姿という考えには変わりありません。

また知識と自らの作品は必ずしも等価ではありません。


さて、メデジンは赤道直下にあり、大まかに日本の季節と逆であることを前提に展開されています。

またコロンビアは、麻薬+マフィアの巣窟という影を引き摺っています。

導入は比較的受け容れやすい句から…

・路上で眠れば脳に実るよ黒葡萄


…上八ですが、中七・下五と定型に近く、安定しています。

観念的ではありますが、感覚的に分かるような気もします。
季語の本意・本情に素直に即してはいませんが、「黒葡萄」が何ともよく活きています。これがマスカットでも他の果実でも代替できず、つまり「黒葡萄」は動きません。高度なテクニックです。

・詩を歌い断崖よりもあかはだか


…唯一の定型ですが、無季です。

メデジンの断崖を読者が周知しているか否かが問題となります。
俳句にはある程度の「普遍性」とともに(情報の)「共有性」を要します。
ここいらが海外詠の難しいところです。

「詠い」とせず「歌い」としているのは、前衛かつ海外詠ゆえかも知れません。


・ロスアンゼルスはふて寝しているわが足の下

下七で無季です。メデジンへ向かう飛行機での詠でしょう。この句に限らず殆ど全ては、「脳」がキャンバスです。「(街が)ふて寝している」とはシニカルな表現です。


・パンパス・グラスは芒じゃないぞ時差ボケ男


同じく下七です。前半が面白いですね。

確かに「洋もの芒」と言ってしまいそうです。
「芒」に季語としての働きはありません。無季です。

・その性器イエスの傷よりずっと深い


…中八・下六の無季です。こう開き直られると、ある意味精神的開放感(カタルシス)を感じます。カラーは違いますが、


「ちんぽこもおそそも湧いてあふるる湯   種田山頭火」


・メデジン夕暮ダンテ嬢からラブレター


…上八・中八・下五の構造です。無季ですが、前述のメデジンの地理的条件や気候を考えると、「メデジン(の)夕暮」は「春の暮」に置き換えることも可能かも知れません。

「ダンテ嬢」と「ダンテ」に、関係があるのかさえも分かりませんが…

「露人ワシコフ叫びて石榴打ち落とす   西東三鬼」


・俳人 I 似の男の詭弁メデジンの午後


…上八・中七・下七の構造です。同じくメデジンの午後」を「春の昼」に置き換えることも可能かも知れません。

中七の「男の詭弁」のフレーズがキリリとしています。逆説的?かも知れませんが、改めて定型の調べの力を実感します。

「マダムX美しく病む春の風邪   高柳重信」


メデジン川あらゆるてのひらから遠い


…中八の句です。メデジン川は何かの隠喩でしょう。最初は「てのひら」が掴もうとしているのは紅葉または落葉かと思いましたが、気候を逆とすれば、飛花でもよさそうです。またそう考えると「川」のイメージと結びつきやすいように感じました。

「空をゆく一とかたまりの花吹雪   高野素十」 

・別れは祭九月の朧月のメデジン


…句またがり(朧/月)の下七です。「改めて「九月の朧月」と言っています。やはりこの俳句群は「春」と捉えるべきでしょう。


最初の「別れは祭」だけで想像力をかき立てられます。


時期を考慮すると「メデジンの花祭り」http://www.colombia.travel/jp/turista-internacional/colombia/culturaと思われます。


Feria de las flores, Medellín
メデジンの花祭り

こうした前衛の海外詠の俳句群を難解・逸脱ととるか、面白い(興味深い)ととるか…
俳人でも意見が分かれるところでしょうか。
私の場合は、確かに難解ではありましたが、面白く(興味深く)読みました。

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