2013年6月4日火曜日

【エロスの匙加減】

松本ヤチヨ様(『手』主宰・『白桃』)より丁寧なお手紙と、拙句集『原型』の選(15句)を戴きました。「壺焼の…」も選に入っていました。

手紙でもメールでも個人-個人間のものであり、差出人の許可を得ず全てを公開することはプライバシーの侵害にあたり、このブログでの公開は差し控えたいと思います。

多くの方の選を戴きました。重複する句もあれば、重複しない句もあります。

エロティックな句は比較的明暗が分かれます。
ほのかな(淡い)エロスの句は採られていますが、露骨な(濃い)エロスの句は採られていません。

拙句集における「ほのかなエロス」(=採られる句)と「露骨なエロス」(=採られない句)を分けてみたいと思います。

〈ほのかな(淡い)エロスの例〉(=採られる句)

・紅梅や少女と微熱分かち合ひ            (春)
・泣き黒子にほんのりと影春の宵
・佐保姫やうすくれなゐの貝の肉

・緑陰に憩ふテニスの少女かな            (夏)
・枇杷剥くやくれなゐの爪汚しつつ
・夜の秋貝殻骨に影ほのか

〈露骨な(濃い)エロスの例〉(=採られない句)

・水ぬるむ頃やをみなの蜜もまた           (春)
・長襦袢解けば刺青や月おぼろ

・汝が乳首緑雨に透けり抱き寄する          (夏)
・緩びたるをみなの唇(くち)や蛍の夜
・蛍火や背徳がゆゑ焦がす身も
・迅雷にかがむ女のうなじかな

・夜霧濃し娼婦は赤き唇(くち)ゆがめ        (秋)

・接吻(くちずけ)にはにかむ夜や息白き       (冬)

全体として「ほのかな(淡い)エロス」も「露骨な(濃い)エロス」も春、夏に多くみられます。これは「春」と「夏」の本意・本情を考えれば、当然かも知れません。

両者のボーダーラインは厳密ではないとは思いますが、上記からいくつか挙げヒントを探してみます。

・佐保姫やうすくれなゐの貝の肉
…昨年の「雪梁舎俳句まつり」の入選句(坪内稔典氏選)です。これは露骨な(濃い)エロスに近いように思えますが、「佐保姫」が空想上のものであることにより成立していると思います。

・水ぬるむ頃やをみなの蜜もまた
明らかに露骨な(濃い)エロスですが、あえて挑戦してみました。「水ぬるむころや女のわたし守 蕪村」が下敷きです。

・緩びたるをみなの唇(くち)や蛍の夜
・蛍火や背徳がゆゑ焦がす身も
…これらは作者が女性であれば評価も変わる可能性もあります。本来、性別も含め、俳句は「無名の詩」であることが望ましいと思います。

夜霧濃し娼婦は赤き唇(くち)ゆがめ
…これはこれで良いと思います。

エロス」=「俗」と考えると分かり易いかと思います
俳句は「俗の匙加減」が大事です。「エロス」も同様です。

選を考察しヒントを見つける作業は怠ってはなりません。
しかし選に流されてもいけません。その形に自分を歪めていけば、「耳障りのいい言葉」しか残らず、「魂の入っていない仏像」を量産する危険性があります。

最大にして最も頼るべきところは、作者自身の選ではないかと思っています。
その根底には確固とした自我を要します。
何も俳句に限ったことではなく、人生全般にいえることではないでしょうか。

・自我のなきものは去るべし青嵐            鷹羽狩行

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