2013年6月27日木曜日

【角川『俳句』7月号より③】

〈作品12句『塩飽屋』安部元気〉

・若布もむひとつかみづつ塩振つて

…景が見えます。作業の手順も分かります。
ただ他の表現の可能性もあるように思います。
例えば「ひとつかみづつ」を「束ごと」に、「振る」を「まぶす」とすれば、「束ごとに若布に塩をまぶし揉む」、「塩まぶし若布揉むなり(揉みたり)束ごとに」となり、風土性も匂うように感じます。

〈作品12句『赫々と』渡辺純枝〉

・根つめて煮る筍や甲斐の雨

…句意は分かります。ただ根つめて煮る筍」はあまり美味しそうと感じません。とろ火ゆっくり煮る方が情緒がありそうです。
例えば、オノマトペ「くらくらと」を用い、「甲斐の雨」は「甲斐は(に)雨」「雨の甲斐」としてみると、「くらくらと筍煮るや甲斐は雨」、「筍(笋;たかんな)をくらくら煮るや甲斐は雨」となり、室内の暗さと筍の白さのコントラストも定かになるかと思います。

〈作品12句『ひと騒ぎ』野中亮介〉

・料峭や漬物石に母の意地

…句意は分かりますが、季語にやや動揺性を感じます。

〈作品12句『跳躍』西宮舞〉

・白き花多き六月嫁御寮

…確かに六月は白い花が目立ちます。単なるジューンブライドではなく、本家の「嫁迎え」のようです。下五の「嫁御寮」が効いています。言葉の選択が良く、俳諧味も感じられます。

〈作品12句『箱庭』上野一考〉

・包丁を研ぎ夏寒のけふ終(しま)ふ

…個人の体験として、夏でも刃物を研ぐ際にはうすら寒さを感じ、背中にひやりとした汗をかきます。手術で人体にメスを入れる時にも似て、呼吸も浅く静かです。
掲句にはそのような感覚を喚起されました。

〈日本の俳人 朝妻力〉

-新作7句-
(なし)(個人的に「美しい季語に美しい内容・措辞」という「美し過ぎる」俳句には抵抗を感じます)

-『息吹嶺』自選20句抄-

・大凶を引くこんな夜は根深汁

…俳諧味があり面白いと思います。「根深汁」から根の深い問題や闇の深さなどを連想させ、季語がよく合っています。

・あやふやな昼夜のあはひ河鹿鳴く

…河鹿は梅雨をはさんで夏の朝夕に鳴きます。梅雨明け前の夕べの景が浮かびます。

・書痴ひとり虫養ひの椎を炒る

「椎」は「思惟」に通じるとする、伊藤伊那男氏の鑑賞に驚きました。
そう考えると面白いと思いますが、果たしてそこまで深読みすべきかどうかは分かりません。そもそも俳句は、他のものより読者に負担をかける文芸であると思うからです。

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