韻文である俳句の詩型は基本的に十七文字です。多くの事象を述べることは出来ません。
しかしその十七文字は、文字情報による伝達のみならず、「記憶の抽斗の鍵」となります。抽斗から溢れる記憶や観念により俳句の情報は伝達および共有されます。
【少女みな紺の水着を絞りけり 佐藤文香】
この句は言外に多くの情報を含んでいます。
例えば中七を言語ではぼ同じである「スクール水着」と置き換えてみます。
〈少女みなスクール水着絞りけり〉…これでは言外の情報は乏しくなります。
「紺の水着を」とすることにより、「紺の」の「の」、「水着を」の「を」という助詞の介在により、まず「水着」が強調され、中七の句中に「間」を生じます。「間」にはリズムを整えると同時に内容にリアリティーを持たせる効果があります。
そこで初めて「記憶の抽斗の鍵」となり得ます。
抽斗を開けると、思春期を迎えた少女らの女の「匂い」が感じられます。滴る水やプールサイドに流れる水にさえエロティックなまでの女の「匂い」が染みているようです。
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