2013年4月25日木曜日

【角川『俳句』5月号より ①】

〈特別作品 50句 『菫濃く』深見けん二〉

・日輪のけむらしてゐる欅の芽

・鶯のあとのしづけさ虚子墓前

全体に一物仕立てが多く、かつ「報告」に終わっている印象を受けました。

その他、気になった句を挙げます。

・寒林のかくまで晴れし枝の先…「晴れし」は言い過ぎのような気がします。
・水洟を垂らす祖父母ぞめでたき日…「ぞ」「めでたき日」等気になります。
・海を見て荒れ地に立てり春遠く…時系列に重要性を感じません。
・菫濃く下安松(しもやすまつ)に住み旧りし…上五と下五は順序が逆かと思います。
・老の身の少しあからみ菖蒲風呂…「少し」は出来れば避けたい言葉と感じます。

〈特別作品 21句 『六騎』伊藤通明〉

・蟻地獄風のとどかぬところまで…さすが巧手です。

・鐘崎の海女も絶えたり燕子花…「白あやめ」でも良いかと思いました。

・老僧を追い廻しゐる羽抜鶏…似た者同士の追い廻しを連想させ、滑稽です。

・火の国の噴煙とどく冷し瓜…「とどく」がやや気になりました。

・引退の海士なり烏賊を干してをり…何故「海女」ではないのでしょうか?「海士」を「かいし」ではなく「あま」と読むならば、意味も異なります。

・土用波三角波となりて寄す…三角波は岩礁などの、海底の地形が安定している海辺で生じます。この句もおそらく鐘崎か玄界灘に面した岩場でしょう。

〈特別作品 21句 『然れども』山下知津子〉

・真昼間の淵の暗さの薮椿…やや類想感はしますが、「昼真昼」が効いています。

・家猫もひもじきころやヒヤシンス…野良猫の危機的な飢餓感とは全く異なる家猫の空腹感と、ヒヤシンス(おそらく紫色)の軽い冷感に接点を感じます。絶妙の距離感です。

・藤房をくぐり女の老いにけり…下五を「華やげり」とすれば陳腐となります。藤房が顔や払う手に当たり、女としてのエキスを分け与えるかのようです。

・いのち食うてつなぐいのちや暮の春…季語の選択が秀逸です。

〈暗唱句〉

時候〈麦の秋-初夏〉

・麦秋や書架にあまりし文庫本           安住 敦
・村の子のお使ひ一里麦の秋            鷹羽狩行
・跳ね橋の戻るを待ちぬ麦の秋           戸垣東人    (☆)
・アトリエに未完の裸婦や麦の秋          原田かほる
・麦秋や工都へ跨ぐ鉄の橋             後藤春翠

天文〈南風-三〉

・日もすがら日輪くらし大南風           高浜虚子    (☆)
・南風や洗ひさらしの岩の列            杉山岳陽
・南風吹くカレーライスに海と陸          櫂 未知子

地理〈青田-晩夏〉
(なし)

生活・行事〈羅-晩夏〉

・乳房(ちちぶさ)はおもたからずやうすごろも   富沢赤黄男
・羅をゆるやかに着て崩れざる           松本たかし   (☆)

動物〈河鹿-三夏〉

・河鹿鳴く夜の吊橋を人きたる           水原秋桜子
・河鹿鳴く中に瀬音はゆくばかり          皆吉爽雨    (☆) 
・遠河鹿夢の切れ目をつなぎつつ          伊丹三樹彦 

植物〈牡丹-初夏〉

・ぼうたんと豊かに申す牡丹かな          太 祇
・牡丹散つてうちかさなりぬ二三片         蕪 村
・牡丹百二百三百門一つ              阿波野青畝 
・牡丹(ぼうたん)や富むといふこと美しく     遠藤梧逸    (☆)
・ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに        森 澄雄

これで重要季語18、例句46です。

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