【『俳壇』8月号より①】
〈作品10句『大転げ』石井いさお〉
・芋の露転び始めて大転げ
…小さな露が集まりやがて滴として芋の葉からこぼれ落ちるまでの過程(時間)は二次曲線の放物線のようです。それをハイスピード・カメラのように時間を捉えています。
・間のありて泳ぎだしたり放生会
…三大勅祭の一つで、葵祭を北祭というのに対し南祭とも呼ばれます。石清水八幡宮のある男山の麓の放生池に魚を放ちます。
放たれた魚は、混乱も含め軽いショック状態のためすぐには動き出しません。泳ぎ出すまでの僅かな時間を「間のありて」と捉えています。この句も時間を捉えています。
〈作品10句『緑雨の午後』大輪靖宏〉
・南風吹けば匂ひの漁師町
…南風が生臭い魚のにおいを、ややさびれた漁師町に漂わせています。
中七の「匂いの」という措辞ですが、ここはつい「匂へり」としたくなるところです。「匂いの」により、全域ににおいが包み込んでいる感じがします。
・世を厭ふごとくに金魚鈍く病む
…ウイルス感染などにより、顔貌がむくみ崩壊しつつある金魚でしょうか。その顔貌はやはり怨みや憎しみを連想させます。
この金魚は顔面が崩壊しながらもすぐには死にません。「鈍く(病む)」とは言い得て妙であり、作者の憂鬱さまでも反映しているようです。
〈作品10句『卯波』千田一路〉
・卯波照る寝足らぬままの瞬きに
…寝不足の目に波頭の反射光は刺激が強いものです。「卯波」は若さの象徴でしょうか。中高年のしょぼくれた目に、若者の姿は眩いばかりです。
・蛇跨ぐ児がゐて動かざる故郷
…山里でしょうか、この子供は作者本人の幼少の姿かも知れません。懐旧の情か、懐かしさを覚えます。
〈作品10句『雀とぶ』津川絵里子〉
・はじかみの紅のうつれる鮎の腹
…ディテールは捉えていますが、鮎の腹にはじかみの紅色が染み込んでいるようで、鮮度の良さを感じず、あまり美味しそうではありません。鮮度の良さを感じません。
「美しき緑走れり夏料理 星野立子」…やはり夏料理は涼しく、あっさり、さっぱりを旨とすべきでしょう。
「紅」を「くれなゐ」とし、中七を「くれなゐ映ゆる」とすると、色染みた感じは薄れるような気がします。
〈作品10句『乱鶯』中西夕記〉
・麦秋や駅の度ごと車掌降り
…景は見え、句意もわかりますが、中七が気になります。「ひと駅ごとに」の方が良さそうです。
〈作品10句『眼力』能村研三〉
・山青し笛一管の試し吹き
…下五「試し吹き」が掲句の眼目と思います。そこに初々しさが感じられ、夏の山(青嶺)とよく呼応しているように感じます。
〈作品10句『後れ盆』宮田正和〉
(なし)
〈暗唱句〉
生活〈重陽-晩秋〉
(なし)
動物〈鹿-三秋〉
・鳴く鹿のこゑのかぎりの山襖 飯田龍太 (☆)
・啼く鹿にもつとも遠き鹿応ふ 小川原噓帥
植物〈木犀-初秋〉
・金木犀風の行手に石の塀 沢木欣一
植物〈木犀-初秋〉
・金木犀風の行手に石の塀 沢木欣一
・銀木犀文士貧しく坂に栖み 水沼三郎
・木犀や同棲二年目の畳 髙柳克弘 (☆)
以上で重要季語6、例句11です。
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