【角川『俳句』8月号より③】
〈『俳句』とわたし・新作7句『惡相』高橋睦郎〉
・雨あひの宙に燈れりビアホール
…こうした景をときどき見かけます。「ビアホール」は本来、開放的で明るく、笑い声が絶えないというイメージがありますが、掲句の「ビアホール」は活気に乏しく、笑い声も聞こえず、淋しい感じがします。
〈『俳句』とわたし・新作7句『こだま』今瀬剛一〉
・脱ぎ散らす衣の重さ牡丹散る
…牡丹の崩れた花弁は大きく重量感もあります。脱ぎ捨てた衣類と感覚的に近いものを感じます。
〈『俳句』とわたし・新作7句『稽古』大石悦子〉
・白玉や歳月癒しやうのなく
…「癒やしやう」という表現は、連用形「癒やし」(連体形「癒す」ではない)+名詞の形です。広辞苑で「よう」を調べると「(動詞の連用形に付いて…)…するしかた。…するぐあい。」とあります。そういう使い方として「癒やしやう」なのでしょう。
「歳月は癒さることがない」は、辛い体験のまま過ぎ去った年月でしょうか。
白玉の「球状」の形と「白」の色は、「魂」などのイメージとも重なり、過ぎ去った年月の記憶を惹起させる要因になっているのかも知れません。
〈『俳句』とわたし・新作7句『虹』寺井谷子〉
(なし)
〈『俳句』とわたし・新作7句『夕ぐれ』小島 健〉
(なし)
〈『俳句』とわたし・新作7句『楷』西村和子〉
・べか舟の殷賑いづこ梅雨葎
…「べか舟」は、海苔の採集のための舟ではなく、江戸時代に利根川支流などの水運用の舟と思います。どちらも薄い板で造られています。「殷賑」は盛んで賑やかなことです。江戸時代には「べか舟」が行き交い、賑わっていた利根川水系ですが、今はその面影もないと嘆いているようにも感じられます。「梅雨葎」が悲しさを強くしています。
〈『俳句』とわたし・新作7句『天體』中原道夫〉
・天體を吊す紐なし金魚玉
…「天體」は地球も含めた宇宙の星々でしょうか。それらを全て球体として考えるなら、西瓜の吊し紐のようなものがあればなぁ、と吊している金魚玉を眺めながら想像しているのでしょうか。
〈『俳句』とわたし・新作7句『青梅雨』片山由美子〉
(なし)
〈『俳句』とわたし・新作7句『頭上』小澤 實〉
・わが髪も燃えて匂ひや毛虫焼く
…毛虫を焼くとき、火の具合を見ていて自分の髪も焦がしたのでしょうか。毛虫の死体を焼く匂いより、髪の毛の動物性蛋白質が焼ける匂いの方が、生々しい匂いがしそうです。
〈『俳句』とわたし・新作7句『夏の雨』津川絵里子〉
・帰路はよく話す青年韮の花
…おそらく行きは緊張しているのでしょう。帰りは緊張から解放されて多弁となっています。現在の景としては若者の就職活動などを想像します。小ぶりで白い「韮の花」の花が、ささやかながら青年を祝福しているようです。
〈暗唱句〉
時候〈夜長-仲秋〉
・妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 森 澄雄
・長き夜の楽器かたまりゐて鳴らず 伊丹三樹彦 (☆)
・これよりの夜長の橋とおもふべし 田中裕明
天文〈十六夜-仲秋〉
・十六夜の妻は離れて眠りをり 石川桂郎 (☆)
・十六夜の金蠅よよと出てゆけり 鳥居真里子
生活〈稲刈-仲秋〉
・稲刈つて鳥入れかはる甲斐の空 福田甲子雄 (☆)
以上で重要季語33、例句92です。
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