【俳句用語と一般用語③】
「かをり」と「にほひ」
※「かをり」
広辞苑;「かおり/薫・香(かおり)」…①よいにおい。香(か)。②つややかな美しさ。③(芸術品などの)何となく感じられるよい感じ。
古語辞典(旺文社古語辞典);「かをり(薫り)」…①よいにおい。②容貌の美しいさま。
と、意味はそう大差なさそうです。ただ広辞苑の③の例文として「文化の…が高い」とありますが、現代では限定的な使われ方をしています。
さて布施明の『シクラメンのかほり』(題・作詞;小椋佳)という歌謡曲があります。
古語に比較的馴染みがある人は、「かをり」の間違いではないのか、と疑問を抱きます。
この話について、小川軽舟氏の講演を大分県で聴いたことがあります。
詳細については、契沖以降の「歴史的仮名遣」では「かをり」が正しいとされ、それ以前にスタンダードだった定家仮名遣では「かほり」が正しいとされている。「かほり」の表記が必ずしも誤りであるとは言えない(Wikipediaより)とのことです。
※契沖(けいちゅう、1640年 - 1701年);江戸時代中期の真言宗の僧。古典学者(国学者)。
「かをり」と「かほり」の平仮名表記では…確かに「かほり」の方が感覚的には好ましい気もします。
少なくとも私は句作において、「香(か)」しか用いませんので、特に不自由はしていません。それには俳句の器の問題もあります。
ただ一般の方は、「シクラメンの『かほり』」の影響が強いためか、無防備に「かほり」と用いているケースを散見します。
う〜ん…、悩ましいところですが、俳人以前に現代社会の人間である訳ですから、大目に見る方が得策でしょうか。
※「にほひ」
広辞苑では…「におい/匂(にほひ)」;①赤などのあざやかな色が美しく映えること。②はなやかなこと。つやつやしいこと。③かおり。香気。④(「臭」と書く)くさいかおり。臭気。⑤ひかり。威光。⑥(人柄などの)おもむき。気品。⑦そのものが持つ雰囲気。それらしい感じ。⑧同色の濃淡によるぼかし。⑨芸能や和歌・俳諧などで、そのものに漂う気分・情緒・余情など。
古語辞典では…「にほひ/匂ひ)」;①色の美しく映えること。②つやのある美しさ。きわだった美しさ。③香り。香気。④風情。気品。⑤光・威光。⑥染め色、または「襲(かさね)の色目」の配色。⑦「匂ひ縅(おどし)」の略。⑧⦅俳諧用語⦆連句で、気分・情緒・余情。
“語史”;古語の「にほひ」;視覚的な美しさから、平安時代以後より、香りや、さらには余情的な風情・気韻も表すようになる。近世には、蕉風俳諧の用語として⑧の意にも使われた。
俳句では、視覚・嗅覚のみならず、上記の広辞苑では⑨・古語辞典では⑧の要素を含んでいます。
俳句において「匂ひ(にほひ」は頻繁に見られますし、また句作にも用います。
「匂ひ(にほひ」の有する多義性・情報量は、「季語」の本意・本情の有するそれと近いものがあります。
俳句においては必須語彙と言えるかも知れません。
さて一般の方の「におい(匂)」では、一部は視覚や雰囲気を指すことがありますが、嗅覚が主体かと思われます。広辞苑も古語辞典でも③に相当するかと思われます。
「臭」に関しては、俳句でも一般用語としても用います。
少なくとも私は、たとえそれが臭気を放っていなくとも、生活に密着する場合は、上記「にほひ」(動;にほふ)と表記しています。
一般用語は、腐敗したものを指し、「臭い(動:臭う)」と使うことが多いような気がします。
「匂ひ「(にほひ)」だけでも、俳句用語と一般用語は用法に乖離が生じています。
確かに一般の方が、俳句の「匂ひ(にほひ)を充分に把握するのは難しいかも知れません。
このあたりの差異も寛大な心で受け止めた方が良さそうです。
媚を売る必要はありませんが、一般の方が俳句を読んでみて、「よくは分からないが、何となくいい感じがする」という声を聞きたいものです。
俳諧も最初は大衆芸能に近いものでした。
俳句の言葉は、マイノリティーのためだけに存在する言葉で良いものだろうか、と私は常々悩んでいます。
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