2013年8月25日日曜日

【角川「俳句」9月号より①】

〈特別作品50句『荒野』大木あまり〉

・青き蛾の夜な夜なきたる網戸かな

…空想めいた句が目立ちますが、作者の個性でもあります。
私自身はそうした句をあまり好みませんが、それでも掲句が気になりました。
頭の中で作者を消し、見知らぬ誰かに置き換え、何度か読みました。
やはり妖しい不思議な魅力が漂っています。
バーチャルがリアリティーを越えた一瞬を垣間見た思いがします。

・炎帝よ飛込台で待ってをれ

飛込台は高さがありますので、下を見なければ視野は空となります
おそらく正面にギラギラした太陽があるでしょう。
その太陽を抱き込み、水の中へと引き摺り落とそうという心理描写です。
私も自分の頭の中にに眠っていた、似たような記憶の存在に気付きました。

・アツパパ夜の句ばかり作りをり

…眼目はアツパパ」です。
「サマードレス」の傍題に「簡単服」があり、アツパパ」はその俗称です。
掲句ではこれが他の夏の衣類と置換することが出来ません。
家居している生活感が滲み出ています。

・子猫はや身籠るまでに萩の雨

眼目は上五「子猫はや」の「はや」です。
上五・中七の内容には実感があります。猫を飼った体験のある人です。
雌猫の避妊手術は雄猫の場合より困難です。本能的な「猫の恋」もありますし、生々しい話ですが、近親相姦もあります。
下五「萩の雨」の距離が適切かどうか分かりませんが、他に季語を含めた言葉が見つかりません。

・鴎外の墓に供えて烏瓜

…中七の末に「切れ」のある、取り合わせの句と思います。鴎外の墓に烏瓜を供えたのではありません。
烏瓜の細長い蔓や散在する実は、軍服の金モールや勲章を連想させます。

〈特別作品21句『音』岸本尚毅〉

・汀めくところに人や出水川

巧いですね、ぐうの音も出ません。
出水あとの景ですが、確たる把握と描写です。そう言われれば、と思い当たります。
また掲句は(西洋)絵画(写真では不可)として描出できそうです。

・扇子置き団扇を持ちてくつろげる

…眼目は下五「くつろげる」です。
外出から戻ってきています。やはり扇子は外向き、団扇は家庭向きです。
何気ない日常の生活を描写しつつ、巧さがさりげなく滲んでいます。

・土用波昼寝の人に遠からず

…眼目は下五「遠からず」です。
「近い」とは言っていません。「明日は淵瀬」などの格言のように、近い将来の不安・不幸といった「憂(浮)き世」を暗示しているかのようです。
季重なりですが、ここでは「土用波」より「昼寝」の方にウェイトがあるかと思います。
一句の構成の完成度が高いと感じます。

〈特別作品21句『水の呪文』上田日差子〉

・空蟬やひとりよがりの夢のあと

…句意は分かります・中七の措辞も良いと思います。
ただし下五「夢のあと」が気になります。「事の果(はて)」などの方がベターかと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿