2013年8月26日月曜日

【角川「俳句」9月号より②】

〈作品16句『博多祇園山笠』行方克巳〉

・祭支度素つぽんぽんにされてより

…博多祇園山笠らしい景です。男児ですが、褌をまだ自分で締めることが出来ません。

・追山笠の空筋交ひに明烏

…祭が最高潮に達するのはフィナーレの追山笠です。嵐の前の静けさといった景です。「明烏」が効いています。

〈作品16句『愛しきものへ』仙田洋子〉

・手にすればくずるる骨や虎が雨

「虎が雨」と内容との距離は難しいものです。やや近い(即き過ぎ)とは思いますが、全体をよくまとめています。

・白日傘吾子とへだたりゆくこころ

…成長した子をやや遠くから眺めている白日傘の母-作者の情景が見えてきます。場所は菖蒲園や川べりなどを連想します。

〈作品8句『秋順順』水見壽男〉

・怒り肩撫で肩北の山粧ふ

…句意は分かります。ただ中七途中からの「北の山粧ふ」の「北の」は不可欠でしょうか。「山の粧へる」としてもも句意はそう変わらず、リズムも整う気がします。

〈作品8句『月の山』三田きえ子〉

・草は穂にいづれも眠り地蔵尊

…句意は分かります。移ろいゆく季節を表現しています。ただ上五の後に句中の切れがあり、中七の後にも句中の切れがあります。そのため多少分かりにくくなっています。上五と下五を入れ替え、「切れ字」を用いると分かり易くなりそうです。

〈作品8句『十勝・夏』源 鬼彦〉

・トンネルの先もトンネル滝不意に

…北海道以外でもありそうな景です。下五で話を一気にまとめる作方は今風かも知れませんが、わざとらしさは感じませんし、個人的には悪くないと思います。

・さよならの仕草涼しきエアポート

…これは北海道の空港ならではと思います。国内線ではあるものの、北海道には北方の大陸という感覚があります。さよならの仕草も北海道の涼気を帯びていそうです。

〈作品8句『蟻も吾も』山崎千枝子〉

・明易し旅も三日の身づくろひ

…三日間の旅の終りの身支度です。朝のうちに出立するのでしょう。ただ上五が「明易や」でなく「明易し」なのが不思議です。

〈作品8句『初秋抄』松尾隆信〉

・百円を入れて撞く鐘稲の花

…「稲の花」と内容の距離感が良いと思います。ただ普遍性の問題で、「百円」が気になります。鐘撞き料は変わってきています。

〈作品12句『山湖』永島靖子〉

・古書市のわが書西日の燦爛と

…古本市に並んでいる陽で茶けた自分の本…気持ちはよく分かります。上五「古書市の」の「の」は「に」ではないかと思います。

〈作品12句『種の保存』秋尾 敏〉

・夕暮の木槿飲屋が待っている

…これは一風変わった「木槿」の句です。ただやはり夕方です。木槿は白か底紅です。
普段着感覚であり、気取りがありません。中七から下五にかけての「飲屋が待っている」の「待っている」には苦笑します。私の日常とそう変わりません。

〈作品12句『京都にて』福永法弘〉

・然(さ)はあれど長州贔屓湯引き鱧

…鱧は獰猛な魚で共食いもします。倒幕の獅子たちと鱧(「湯引き鱧」)とに共通点があります。
ただ上五「然はあれど」の前提が分かりませんので、幕府VS長州藩なのか薩摩藩VS長州藩なのか、それとも長州藩の悪や弱さ(桂小五郎(逃げの小五郎)-木戸孝允、薩長連合の前は危機的状況にあった、など)か分かりません。

〈作品12句『宵闇』長嶺千晶〉

・夏牡蠣を採るや礁を掌で伝ひ

…きれいにまとまっていると思います。ただ「夏牡蠣」という独立した季語は見当たりませんし、「夏の牡蠣」だとしても、冬の牡蠣ではなく「岩牡蠣」です。内容からも「岩牡蠣」と思います。「岩牡蠣」はそれぞれが癒着して岩の塊のようになっています。とても一人で採れるものではありません。

〈作品12句『よどみなき水』今瀬一博〉

・重力をなくして死せり兜虫

…名前の通り兜虫は甲冑を着込んだように重そうに見えます。死んだ兜虫を持ち上げると、案外軽いことに気付きます。そのことを前提に、順序を変えて「重力をなくして」と表現していると思います。

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