2013年3月25日月曜日

【角川「俳句」4月号より ①】

〈特別作品50句 「春の鳥」鷹羽狩行〉

・道よりも橋のよごれて春の泥
…泥道と木造の橋です。白っぽい橋に残る足跡や土塊は、凌辱の跡のようにも見えます。
「春泥や道より橋のよごれゐて」という表現でも良さそうな気がします。

・啓蟄や返書を待てば訪ね来て
…「返書」がミソですね。「返事」とすると、今の時代はハガキ、電話、ファックス、またはメールか分からなくなります。「返書」とすることで時間の流れや、用件を含んだ封書であることが伝わってきます。

・目を合はすことなくなりぬ恋の猫
…飼い猫ですが、「恋猫」の本情をよく捉えています。飼い猫といえどこの時期は野性に身を委ねます。もはや家は食餌の在処に過ぎなくなります。主人と睦まじく過ごす余裕もありません。当然、恋猫が主人と目を合わせることは減ります。また恋猫に目を合わす(精神的であっても)ことに主人である作者の躊躇が感じられます。

・山を出てまだ覚めやらぬおぼろ月
…中七「まだ覚めやらぬ」は「春眠」と重なる要素があります。そのため「おぼろ月」はダメ押しの感がします。ここは「春の月」で良いかと思いました。

・只中にゐて菜の花を見てをらず
…類想感がありますが、「花菜明り」の刺激的なまでの眩しさが感じられます。

「恋猫」が一番、「啓蟄」が二番というところでしょうか。
残念ながら「機知」(直喩・擬人法など)を全て排除するくらいの「意気込み」は感じられませんでした。

〈暗唱句 ⑰〉

時候
〈春の夜-三春〉
・時計屋の時計春の夜どれがほんと          久保田万太郎
・春の夜や後添が来し燈を洩らし           山口誓子      (☆)
・春の夜のつめたき掌(て)なりかさねおく      長谷川素逝
・春の夜の浴槽(ゆぶね)に胎児との浮力       寺井谷子
・春の夜や朽ちてゆくとは匂ふこと          ふけとしこ

天文
〈春雷-三春〉

・春雷のたどたどして終りけり            細見綾子
・春雷や三代にして芸は成る             中村草田男
・春雷は空にあそびて地に降りず           福田甲子雄     (☆)

地理
〈春泥-三春〉
鴨の嘴(はし)よりたらたらと春の泥         高浜虚子
春泥に子等のちんぽこならびけり           川端茅舎      (☆)
六道(ろくどう)のどの道をいま春の泥        上田五千石
春泥の春泥らしきところ踏む             桐生正恵

生活・行事
〈春眠-三春〉
・金の輪の春の眠りに入りにけり           高浜虚子
・玉のせるかに春眠の童の手             上野 秦
・春眠の大き国よりかへりきし            森 澄雄
・春眠といふうす暗くほの紅(あか)く        岡本 眸      (☆)
・春眠のひとときに乳たまりけり           関根千方

植物
〈紫雲英〉
・げんげ田の鋤かるる匂ひ遠くまで          細見綾子      (☆)

これで重要季語94、例句263です。

0 件のコメント:

コメントを投稿