〈特別作品50句 「春の鳥」鷹羽狩行〉
・道よりも橋のよごれて春の泥
…泥道と木造の橋です。白っぽい橋に残る足跡や土塊は、凌辱の跡のようにも見えます。
「春泥や道より橋のよごれゐて」という表現でも良さそうな気がします。
・啓蟄や返書を待てば訪ね来て
…「返書」がミソですね。「返事」とすると、今の時代はハガキ、電話、ファックス、またはメールか分からなくなります。「返書」とすることで時間の流れや、用件を含んだ封書であることが伝わってきます。
・目を合はすことなくなりぬ恋の猫
…飼い猫ですが、「恋猫」の本情をよく捉えています。飼い猫といえどこの時期は野性に身を委ねます。もはや家は食餌の在処に過ぎなくなります。主人と睦まじく過ごす余裕もありません。当然、恋猫が主人と目を合わせることは減ります。また恋猫に目を合わす(精神的であっても)ことに主人である作者の躊躇が感じられます。
・山を出てまだ覚めやらぬおぼろ月
…中七「まだ覚めやらぬ」は「春眠」と重なる要素があります。そのため「おぼろ月」はダメ押しの感がします。ここは「春の月」で良いかと思いました。
・只中にゐて菜の花を見てをらず
…類想感がありますが、「花菜明り」の刺激的なまでの眩しさが感じられます。
「恋猫」が一番、「啓蟄」が二番というところでしょうか。
残念ながら「機知」(直喩・擬人法など)を全て排除するくらいの「意気込み」は感じられませんでした。
〈暗唱句 ⑰〉
時候
〈春の夜-三春〉
・時計屋の時計春の夜どれがほんと 久保田万太郎
・春の夜や後添が来し燈を洩らし 山口誓子 (☆)
・春の夜のつめたき掌(て)なりかさねおく 長谷川素逝
・春の夜の浴槽(ゆぶね)に胎児との浮力 寺井谷子
・春の夜や朽ちてゆくとは匂ふこと ふけとしこ
〈春雷-三春〉
・春雷のたどたどして終りけり 細見綾子
・春雷や三代にして芸は成る 中村草田男
・春雷は空にあそびて地に降りず 福田甲子雄 (☆)
地理
〈春泥-三春〉
鴨の嘴(はし)よりたらたらと春の泥 高浜虚子
春泥に子等のちんぽこならびけり 川端茅舎 (☆)
六道(ろくどう)のどの道をいま春の泥 上田五千石
春泥の春泥らしきところ踏む 桐生正恵
〈春眠-三春〉
・金の輪の春の眠りに入りにけり 高浜虚子
・玉のせるかに春眠の童の手 上野 秦
・春眠の大き国よりかへりきし 森 澄雄
・春眠といふうす暗くほの紅(あか)く 岡本 眸 (☆)
・春眠のひとときに乳たまりけり 関根千方
植物
〈紫雲英〉
・げんげ田の鋤かるる匂ひ遠くまで 細見綾子
これで重要季語94、例句263です。
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