【角川「俳句」4月号より⑦(終)】
〈作品7句 「今日の俳人」より〉
〈『春へ』中村堯子〉
・叡山にとびとびの影餅に黴…互いの類似点を並列して述べています。
・ささくれに醤油のしみる二月かな
…「しみる」は口語ですね。「ささくれにしみる」は例えば酸(柑橘類)などが「ささくれ」に痛むと誤解されるおそれがあり、漢字を用い「染む」「浸む」とした方が親切かと思います。
・煮凝も駅めぐる灯もふるへをり
…作者の位置が分かりにくい感じがします。車内か、プラットホームか、駅の近くか…「煮凝」との物理的・心理的距離感を考えると、駅の近くが妥当でしょうか。
〈クローズアップ 金久美智子句集『くれなゐ深き』〉
〈新作5句〉
・おぼろ月掲げて地軸傾ける
…「春の月さはらば雫たりぬべし 一茶」、「紺絣春月重く出でしかな 飯田龍太」と「春の月」「朧月」は大気中の水蒸気の上昇に伴い「朧」に伴い重たく感じられます。
地球がその月を持ち上げたら地軸が傾くというのです。科学的・天文学的にはあり得ないことですが、地球をうまく擬人化しています。「水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子」とも通じます。
〈同 谷中隆子句集『花樗』〉
・玉に瑕ありて好もし白芙蓉
…「瑕瑾」といういう言葉があります。「瑕」は玉のきず、「瑾」は美玉です。この場合の「瑾」は「白木槿」ではないかと想像します。
・春鮒の泥息深く吐きにけり
…角川4月号の日下野由季氏の鑑賞を参考にされて下さい。泥水を吐き出す音が聞こえてきそうです。その勢いがいかにも春らしいと感じました。
・春愁や魚の腹より魚の出て
…同じ景を見たことがあります。さすがに消化されつつあった胃の腑の魚を食べようという気持ちは起きませんでした。また本来「秘すべき」ところに触れてしまったという苦い感情と後ろめたさを覚えました。この感情も「春愁う」の一部なのかも知れません。
〈新鋭俳人 20句競詠『空の無音』平井岳人〉
・座席得てすぐに眠りぬ春の雪
…青春性を感じます。若者の蒸れた汗や息の匂いまで感じられます。
・シクラメン昼を灯さぬ喫茶室
…中七の「昼を灯さぬ」が効いています。
しかし上五・下五が体言(名詞)で、いわゆる「三段切れ」となっています。
例えば「喫茶室」を上五に据えて字余りとするか、「茶房」とし、下五に「シクラメン」を据える方が体裁が良いように思います。
〈同『仰向けに』兼城雄〉
・春の夜の厨に母の老いてをり
…「春の夜」が効いています。柔らかい、緩徐な老いです。これが「冬の夜」になると、老いた母を愕然として知ったということになります。
作者は母の老いをある程度分かってます。それでもふとした陰翳に「老い」を実感するものです。母の老いを実感しつつ母の料理を噛みしめている作者の姿が見えてきます。
・菜箸に炒むるパスタ草萌ゆる
…「菜箸」が効果的です。
色合いだけでなく、湯気も香も感じられます。
ミートソースやナポリタン、更にはスープパスタではなく、ペペロンチーノが相性が良さそうです。それもカリカリに炒めたベーコンと菜の花などを和えた和風ペペロンチーノを想像します。
ただ「菜箸」と「草萌ゆる」は重なる部分があり、季語である「草萌ゆる」の主張がやや弱い印象がします。季語を替えても良いかと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿