2013年3月3日日曜日

【角川「俳句」3月号より⑤(終)】

〈第1回星野立子賞受賞作品 「はじまりの樹」30句抄 津川絵里子 より

① 切り口のざくざく増えて韮にほふ
抜きん出て優れている句と思いました。「上手い」の一言に尽きます。
上五・中七は出そうで出ない措辞です。書き慣れている印象がします。
下五「韮にほふ」の生活感。読者の嗅覚までも刺激します。

小澤實氏もこの句を取り上げ、「(韮の増えていく切口をしかと見せ、〈ざくざく〉という音も聞かせ、青臭い匂いまで感じさせる。視覚、聴覚、嗅覚をもって韮の命を捉えているわけだ。」と評価しています。さすがに上手の評です。

② 滝涼しともに眼鏡を濡らしゐて
…言われてみればよくある光景ですが、そこを上手く掬い上げています。

③ バケツ一杯の白球晩夏光
…晩夏のスポーツと言えばまず野球を思い出します。この句は練習風景でしょうか。

拙句「ピッチャーの帽子まぶかや晩夏光 山咲臥竜」『原型』収録。
これは(野球の?)甲子園の試合の様子。

④ 木犀やバックミラーに人を待つ
お忍びの待ち合わせでしょうか。運転席のパワー・ウィンドーを半分ほど開け人を待っています。バックミラーを時々眺めているのは、はやる気持ちからです。他人を気にしてサングラスをかけているかも知れません。ウィンドーから木犀の香の甘ったるい匂いがします。読者に「読ませる」という俳句の姿が魅力的です。
「木犀や同棲二年目の畳 髙柳克弘」を想起させます。

⑤ 笹鳴や亡き人に来る誕生日
…亡き人の誕生日には、春禽の囀の華やかさより、地味でささやかな「笹鳴き」がよく合います。取り合わせの配合が見事です。

⑥ 綿虫や仕舞ひつつ売るみやげもの
…冬の夕暮の空やお店の老店主姿が浮かびます。

⑦ 砂時計の砂のももいろ春を待つ
「砂時計の砂の」というリフレインが効果的です。「待春」を選択しているところも注目すべき点でしょう。「春近し」とすれば効果は半減します。

〈同新人賞受賞作品 10句抄より

〈「秋ともし」抜井諒一 より〉

・花火などなかつたやうな夜空かな
…花火の夜空は白煙に包まれますが、次第に本来の夜空の色を取り戻してきます。作者は何処かの階上にいるのでしょう。陶酔感はさめやらぬままです。花火が終わり、数時間以内の違和感を捉えています。

〈「姉妹」糸屋和恵 より〉

・石蕗の花このごろ熱を出しやすく
…枯れ色に染まった冬に、「石蕗の花」はまばゆいほどです。春の「菜の花」よりまばゆく感じます。中枢神経まで刺激し、発熱しそうです。
「石蕗の花」の選択がよいと思います。

「熱」でなく「微熱」と言えば、春らしく感じられます。

拙句「紅梅や少女と微熱分ち合ひ 山咲臥竜」『原型』収録

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