【角川「俳句」4月号より⑤】
〈第52回俳人協会賞 受賞作 『香雨』30句抄 片山由美子〉
① あけぼのや春の音とは水の音
② 花の色とはうすべにか薄墨か
③ 客間とは誰もゐぬ部屋春の昼
④ やはらかく胸を打ちたる団扇かな
⑤ この街に老いゆくつもり落葉踏む
⑥ 枯すすむ木と草となく香ばしき
⑦ 命あるものは沈みて冬の水
①…「春の音とは水の音」という措辞が先にあり、「あけぼのや」は後から付いた印象がします。春のウェット感と命の息吹とをうまく表現しています。
②…あえて「山桜」の白を略し、「うすべに」「薄墨(桜)」と並列しているところに技巧を感じます。
③…「春の昼」の本情に、静謐にしてやや現実離れした空間を内包している感があります。「葬儀」などとの取り合わせも少なくありません。この句も整然としつつ殺風景な内容と組み合わせています。ほど良い「陰」との組み合わせかと思います。
④…言われて見れば納得します。「扇子」ではなく「団扇」であり、寛いだ風情がします。仮にこの空間に異性がいるとすれば、(入浴後の)身の火照り(フェロモン)を漂わせているようにも連想します。
⑤…下五「落葉踏む」に決意のほどが現れていると思います。
⑥…下粉「香ばしき」という表現(嗅覚)により、陰を陽と捉えた発見があると思います。
⑦…言われて見ればなるほどと納得します。例えば鯉は命あればこそ個の保存を優先し、水底に沈み冬を越します。浮かぶものは、動物に限らず命の絶えたものなのです。
〈第52回俳人協会賞 受賞作第一作『眠くなる』〉
・折つて読む日経新聞朝ざくら
…これまでの作品とは代わり、日常詠です。
朝の通勤列車の景であり、車外にはほころび始めた桜が見えます。おそらく作者自身の姿ではないでしょう。
・燃え尽きて灰の真白や花篝
…「花篝」に対する一抹の淋しさもありますが、言外に灰の真白と桜のうすくれないとの色の対比の構造を感じます。
0 件のコメント:
コメントを投稿