2013年3月30日土曜日

角川「俳句」4月号より⑥

〈第36回俳人協会新人賞 受賞作 『雪華』30句抄 甲斐由起子〉

① 流し雛ひと揺らぎして水底へ

② うつしみの色さしきたり羽化の蟬

③ 翅も目も一山も濡れ蟬生まる

④ 一湾を流れてきたり花火の香

⑤ 病み抜いて垢も浮き来ぬ柚子湯かな

…①の作り方には好感を持ちます。④は新しい感覚と思います。

〈同 受賞第一作『耳澄ます』〉

・遅れ来る人の眩しさつばくらめ

送れて来た人と燕の取り合わせですが、巧いですね。言われてみれば確かにそうです。

〈第36回俳人協会新人賞 受賞作 『眼光』30句抄 下坂速穂

① 寒紅やくやし涙のまつすぐに

② 燕の子濡れずに雨を見てゐたる

③ くさはらを歩めば濡れて魂祭

④ 灯さずにゐる夕暮や衣被

⑤ 約束の夜風に集ひ今年酒

…①は「まつすぐに」に青春性を感じます。④は倦怠感と共に懐かしさを感じます。

〈同 受賞第一作『掌編』〉

・古草や湯島へゆくに上り坂…明快にして深し、という感じがします。

〈第36回俳人協会新人賞 受賞作 『熊野曼荼羅』30句抄 堀本裕樹

① 葉擦れみな言の葉となる五月かな

② 月光を身籠もつてゐる海月かな

③ 行き倒れし者蟋蟀に飛び乗らる

④ 椎の葉に夕日うつくし新豆腐

⑤ 夜咄や暗がりに斧立て掛けて

…④は「椎の葉」と「新豆腐」の色彩の対比が良いと思います。⑤は「夜咄」のルーツが感じられます。

〈同 受賞第一作『癋見の目玉』〉

・鳥雲に入るや巨石に海の風…天上の風と地上(海原)の風の違いを感じます。

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