2013年5月31日金曜日

【跛行】

「梅雨入り」前の「走り梅雨」の頃より、古傷の右膝関節がじんじんと慢性的に痛み、ついに右足を引き摺って歩く「跛行」の状態となりました。

関節可動域には問題なく、脚力もそう問題ありませんが、それでも右膝に不快な深部痛を終日感じます。解熱鎮痛消炎剤により、多少痛みはやわらぎますが、著効とまではいきません。

脊髄に至る末梢神経には、温痛覚を司り伝達速度の速いAδ fiberと、深部痛や触覚を司り伝達速度の遅いC  fiberがありますが、私の場合はどうもC  fiberの要素が大きいようです。

膝への直接的なダメージの初回は、総合格闘技をしていた頃、肉体改造を急ぎ、急激にウエイトを上げた末の障害でした。腰痛に加え両膝関節痛で、体にはコルセットやサポーターという状態となり、幼い頃からの格闘技人生に終止符を打ちました。

二度目は、酩酊したまま高所から飛び降りたものの、目測を誤りコンクリートに直接右膝を叩き付けてしまいました。しばらく右脚は紫色に腫れ上がりました。おそらく半月板や靱帯の損傷に加え、関節面のズレも生じているでしょう。

まぁ、自分のしでかしたことは自分でケツを拭くしかありません。

関節痛、頭痛、足白癬(水虫)、黴などに悩まされる梅雨という時期ですが、それでもなくなればまた淋しいものかも知れません。

〈暗唱句〉
生活・行事

〈柏餅-初夏〉
・生きてゐることに合掌柏餅            村越化石      (☆)

〈土用鰻-晩夏〉
・人影のかたまつて出る土用丑           桂 信子      (☆)

〈走馬灯-三夏〉
・走馬燈ながるゝごとく人老ゆる          西島麦南      (☆)
・追はるるは昔のをんな走馬灯           井沢正江
・走馬灯あの世この世となくまはる         藤岡筑邨

これで重要季語144、例句376です。

2013年5月30日木曜日

オイディプスとスフィンクス
ギュスターヴ・モロー (1864年)

複製画
【オイディプスとスフィンクス】

梅雨入りです。しかも例年より10日以上も早く。
これから約一ヶ月半は梅雨が続きます。

日本の風土や芸術、とりわけ文学におけるそのウェット性の重要性は理解しており、俳句に限らず季節を感じる上では欠かせない時期と思います。

通年を常夏のリゾート地で過ごすのも、それはそれで季節感が薄れそうです。

それでも梅雨はやはり生理的に嫌いです。

「梅雨入り宣言」の前の「走り梅雨」の頃より、心身の不調を感じています。

身体的に知覚したのは、古傷の腰・両膝関節の増悪、全身倦怠感、頭痛および頭重感などです。

環境において高温多湿、蚤、壁蝨、虱、食中毒、白癬(水虫)・黴などに悩まされます。

「梅雨」を「夏」とは別にすべきという意見も、ある程度分かります。ただ仲夏は「梅雨」に合致する期間が長くいため、現状のままで良いかと思います。

梅雨に入った先日、一ヶ月前に衝動的に購入した商品が届きました。
ギュスターヴ・モローの『オイディプスとスフィンクス』の複製画です。
原画はメトロポリタン美術館に所蔵されており、206.4×104.7 cm です。
この複製画は70 36 cmですが、額装まで入れると82 50 cmになります。

説明についは、http://www.salvastyle.com/menu_symbolism/moreau_edipe.htmlを参照されて下さい。

鰥夫(やもお、男やもめ)の部屋には似つかわしくないかも知れません。引越の時困りそうですが、この絵を好む方に寄贈するつもりです。

梱包梱包した荷物が届けられた時、その大きさやゴトリという音により、胃の腑に鉛の玉の重さを感じ、私なりの「梅雨入り」を迎えた気になりました。

〈暗唱句〉
生活・行事
〈鯉幟-初夏〉
・落人の里高々と鯉のぼり             渡辺恭子
・潮風に口うつくしき鯉のぼり           井上弘美      (☆)
・山の風吐かせてたたむ鯉幟            頼長秀子

〈菖蒲湯-初夏〉
・灯のさして菖蒲片寄る湯槽かな          内藤鳴雪      (☆)

〈端居-三夏〉
・父とわれありしごとくに子と端居         大橋桜坡子     (☆)

これで重要季語141、例句371です。

2013年5月29日水曜日

【角川『俳句』6月号より⑥(終)】

〈Close Up ながさく清江句集『雪の鷺』〉

-新作5句-

・口ずさむ古き寮歌や夕桜


「桜」とりわけ「夕桜」と取り合わせた内容が、従前の範疇と異なりますが、それでいて一句をうまくまとめています。

女学生時代の寮歌をさんざん歌ったせいか、今でも憶えており口ずさんでいます。
昔を懐かしみつつ、過ぎた歳月に思いを馳せています。そうした心情を「夕桜」が反映し、支えています。

-『雪の鷺』自選20抄-

・あたたかや廻されながら壺生まれ


下五の「生まれ」が効いています。無から有を生み出す過程であり、アダムの肋骨からエバ(イブ)が生まれたことということも連想させます。


・朧夜や灯明尽くるとき匂ひ

・大綿や夕日しばらく野をぬくめ


・みづうみの遠くは日差す雪の鷺


伊藤通明氏が掲句を採っています。

叙景的で、一幅の山水画を見るようです。また遠近法もあり、湖は鷺の奧まで広がっています。枯淡とした景で、日本人の美意識を感じさせます。
中七の「遠くは日差す」は、連用止め「日差し」でも良い感じがします。

〈新鋭俳人20句競泳『藍深く』矢野玲奈〉


・丈少し短くしたる春の服

若い女性像を感じます。
中七の「したる」は、「したり」または「しては」でも良いかと思いました。

・引つ張れるセロリの筋や万愚節

季語の選択が良いと感じました。
上五「引つ張れる」がやや気になります。「伸びゐたる」などとするか、上五と下五を置き換えて「万愚説セロリの筋の引つ張りて」としても良いかと思いました。

〈新鋭俳人20句競泳『右向け右』髙勢祥子〉

・膨らますどの風船も同じ味

言われみればて当たり前なのですが、「味」という着地が意外で諧謔を感じました。

〈俳人スポットライト 『長良川鵜飼』大谷櫻〉

・疲鵜や朝影の小屋戸を鎖さず

鵜匠の小屋の朝の静けさが伝わります。鵜匠は小屋に出入りしていますが、それぞれの箱の疲鵜は、夕方の猟にそなえ体力の回復をじっと待っているようです。この景にも「もののあはれ」を感じます。

〈俳人スポットライト 『桜月夜』中川靖子〉
(なし)

〈俳人スポットライト 『桃の花』曽根富久恵〉

・何よりの母の元気や桃の花

「桃の花」という季語の本意・本情をよく把握していると感じました。
「桃の花」は「桜」と違い、「鄙びた花」です。また「秋の風」同様に、どの内容にも即きやすく(「即き過ぎ」となり易い)、慎重さを要する季語です。
「桃の花」に対応する内容は人事が多くなりがちです。

〈俳人スポットライト 『芽吹山』大塚次郎〉

・利根川の水たんまりと芽吹山

お手本のようによくまとまった句と思いました。
「水」と「山」、水平と上方の視野の違いや、オノマトペ「たんまりと」が効果的です。

・一輪草二輪草とて徒党組み

言われてみればその通りです。「一輪草」「二輪草」と言われれば、視野狭窄を起こし、ついその花だけを見て詠んでしまいがちです。一般社会や世論にも通じるかも知れません。諧謔にして示唆に富んでいます。

〈暗唱句〉
天文〈旱-晩夏〉
・食べるより息する口や大旱            丸山海道      (☆)

地理〈土用波-晩夏〉
(なし)

生活・行事〈髪洗ふ-三夏〉
・髪洗ひたる日の妻のよそよそし          高野素十
・せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ         野澤節子      (☆)
・髪洗うまでの優柔不断かな            宇多喜代子
・をんなにも妻にもなれぬ髪洗ふ          信濃小雪

これで重要季語138、例句366です。

2013年5月28日火曜日

【角川『俳句』6月号より⑤】

〈日本の俳人100・3 大石悦子句集『有情』〉

-新作7句 『夢のうち』-

・山に折り谷に折りして紙雛

言われてみればそうだったと思い当たります。上五・中七から下五「紙雛」への着地が意表をついて、面白いと感じました。
-『有情』自選20抄-


・菖蒲酒学びしことの芳しく

小川軽舟氏はこの句を採っています。氏の鑑賞と変わりませんが、一部抜粋します。
「…大切なのは個々の教えではなく、その人物に接した日々から立つ馥郁たる香りのようなものではないか。菖蒲酒を季語に据えて、掲句はそう言っているようだ…」

中七+下五の内容に上五の季語を取り合わせています。
下五の「芳しく」が「菖蒲酒」をやや「即き過ぎ」にしている感じはします。

〈作品7句 今日の俳人 『蝌蚪の国』西山常好〉

・みちくさの子の川叩き初つばめ

「初つばめ」に即した内容です。

〈作品7句 今日の俳人 『湖の濃淡』比田誠子〉
(なし)

〈作品7句 今日の俳人 『磁器共鳴音』大野鵠士〉

・冷し酒時かけて盛一枚を

江戸っ子らしい酒の嗜み方で、池波正太郎氏の時代小説の一コマのようです。

〈作品7句 今日の俳人 『白深く』長島衣伊子〉
(なし)

〈作品7句 今日の俳人 『青空』黒澤あき緒〉

・雲食うてゐるやうな髭桜守

非営利的にて「桜守」なる人を実際に見たことがありませんが、掲句のように仙人の様相を想像します。

〈作品7句 今日の俳人 『芽吹き』三森鉄治〉

・ものの芽のなべてくれなゐ仏生会

「仏生会」によく合った内容です。特に中七の「くれなゐ」が効果的です。

〈暗唱句〉

時候〈夜の秋-晩夏〉
(なし)

天文〈片蔭-晩夏〉

(なし)

地理〈卯波-初夏〉

・あるときは船より高き卯波かな          鈴木真砂女    (☆)

これで重要季語135、例句361です。