2013年5月24日金曜日

【角川『俳句』6月号より ①】

〈俳人の時間 26 長谷川櫂 新作5句〉

・夏痩せて妻は美人に戻りけり

最後の句は諧謔。作者を伏せてこの一句のみ抽出すれば、特に驚きはありません。
しかしそれまでの4句との落差が大きく、また作者に対する先入観が働いているためか、つい目を奪われます。突然の「スローボール」を「魔球」と捉えてしまうかのような錯覚が起きます。俳句は「無名の詩」であるべきとつくづく感じます

〈特別作品 50句 『普賢象』黒田杏子〉

・花を待つかなしきことをかなしまず

深い哀しみを抱えつつ、淡々と生きていく作者の姿勢が表れています。花を待つ姿は祈りに近いものです。

・高野より吉野へ暁の花三分

「暁の」により、高野山から吉野山までの徒歩による移動を想像させます。
「暁の花三分」の措辞は、暁光、山の朝の冷たく澄んだ空気、そして咲き初めた山桜の白い花弁などのディテールを浮かび上がらせます。また同時に「梅が香にのつと日の出る山路かな 芭蕉」を連想させます。

・三井寺をあふれんばかり花の闇

「花の闇」の「闇」は「闇夜」のことでしょう。「花の闇」からは、ほのあたたかい閑かさが伝わってきます。
「三井寺をあふれんばかり」という措辞は、具体的な対象(「三井寺」)を出すことにより、「花の闇」という抽象的なものが具現化し、その広がりまでもが伝わります。
なお「花の闇」を「花万朶」等に置き換えると、一気に陳腐な句となってしまいます。

・花の夜はロールキャベツをあたためて

他の作品と比べると散文的ですが、「花の夜」と「(冷えた)ロールキャベツ」の相性が抜群に良いと感じます。
「(冷えた)ロールキャベツ」の、白濁し粘度の増したスープや、鈍い光までも感じられます。

・満開の月の薄墨桜かな

月下の薄墨桜の妖気すら感じます。
「満開の」、「月の」と重複して薄墨桜を修辞しています。「月の」が中七にあります。一見地味ですが確固としたレトリックです。

・鉦の音の過ぎて鈴の音花の辻

「鉦の音」から「鈴の音」までの徒歩による移動の距離感も伝わります。「花の辻」とは、なかなか出て来ない措辞です。

〈暗唱句〉
植物

〈昼顔-仲夏〉
・昼顔のほとりによべの渚あり           石田波郷     (☆)
・ひるがほに電流かよひゐはせぬか         三橋鷹女
・昼顔は誰も来ないでほしくて咲く         飯島晴子
・昼顔や捨てらるるまで櫂痩せて          福永耕二

〈苔の花-仲夏〉
・苔さくや仏うするゝ石の面            石橋秀野     (☆)

これで重要季語124、例句337です。

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