2013年5月25日土曜日

【角川『俳句』6月号より ②】

〈作品16句『蜃気楼』棚山波朗〉

・招きたる潮に溺るる潮まねき

大人の童話」にも似た、諧謔のなかにもペーソスが漂っています。

・龍宮の花の屑なるさくら貝

そう言われると、そうかも知れないと思ってしまうところがあります。「虚」を「実」にうまく転換しています。「白魚のさかなたること略しけり 中原道夫」を連想します。

・蜃気楼立つ一湾の音を統べ

視覚(「蜃気楼」)に聴覚情報(波の音など)が遮断されています。それほどの荘厳かつ幻想的な景。蜃気楼は朝に起きやすいため、なおさらその感が強くなります。

〈作品16句『折山』中西夕紀〉

・春禽の飛ぶとき色を捨てにけり

(雄が)羽根を拡げると、鮮やかな羽根は見えなくなったのか、すばやい飛翔に人間の動体視力では追えなくなったのでしょうか。できれば後者として捉えたいところです。

・一蝶の水に貼りつく足掻きかな

水溜りに落ちた蝶が必死に翅をばたつかせている姿を「足掻き」と表現しています。
翅をばたつかせる度に鱗粉は剥がれ落ち、その粒子が周囲の水面に浮いているでしょう。
「悪足搔き」という言葉の通り、蝶はやがて死を迎えます。
残酷な景ですが、俳人としての冷徹な視線を感じます。

作品8句『大和坐り』倉橋羊村

・水陽炎も映えて少女の藍浴衣

少女の清潔感を感じます。「藍浴衣」の柄は朝顔でしょうか。
時折、「水陽炎」を季語として用いる方がいます。「陽炎」とは現象を全く異にし、また歳時記の傍題にも見られません。

作品8句『薔薇の風』水田むつみ

・かの人を偲べと薔薇の濃むらさき

言われてみれば「濃むらさきの薔薇」には、陰性のメッセージを有しているかのようです。他の薔薇が多弁に美しさを競い合っている中、濃むらさきの薔薇」は深く沈黙しています。この薔薇は、やがて内部に言霊を有し、呪詛めいた言葉をつぶやきそうです。

作品8句『砂漠の星』山陰石楠
(なし)

作品8句『丘の落暉』山元志津子
(なし)

作品8句『鳴いてすぐ』鳥居三郎
(なし)

〈暗唱句〉
植物
〈萍-三夏〉
・萍をしきりに送り舟の棹             石田勝彦      (☆)
・漂ふはなびくにあらず萍も            津森延世

〈黴-仲夏〉
・かほに塗るものにも黴の来りけり         森川暁水
・黴匂ふ仏の千手意味無意味            平畑静塔
・黴のアルバム母の若さの恐ろしや         中尾寿美子     (☆)
・黴の世や言葉もつとも黴びやすく         片山由美子

これで重要季語126、例句343です。
『角川俳句大歳時記』の重要季語は終わりました。
『新日本大歳時記』と『日本の歳時記』から「洩れ」を探してみます。

時候;「灼く」、「夜の秋」
天文:「五月闇」、「片蔭」、「旱」
地理;「滴り」、「卯波」、「土用波」
生活・行事;「行水」「髪洗ふ」、「鯉幟」、「菖蒲湯」、「端居」、「柏餅」、
      「土用鰻」、「走馬灯」、「打水」、「早乙女」、「繭」
動物;「蜥蜴」
植物;「蕗」
と、21の季語の「洩れ」があります。多くは生活・行事の項です。
3つずつ片付けていきましょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿