〈作品16句『蜃気楼』棚山波朗〉
・招きたる潮に溺るる潮まねき
「大人の童話」にも似た、諧謔のなかにもペーソスが漂っています。
・龍宮の花の屑なるさくら貝
そう言われると、そうかも知れないと思ってしまうところがあります。「虚」を「実」にうまく転換しています。「白魚のさかなたること略しけり 中原道夫」を連想します。
・蜃気楼立つ一湾の音を統べ
視覚(「蜃気楼」)に聴覚情報(波の音など)が遮断されています。それほどの荘厳かつ幻想的な景。蜃気楼は朝に起きやすいため、なおさらその感が強くなります。
〈作品16句『折山』中西夕紀〉
・春禽の飛ぶとき色を捨てにけり
(雄が)羽根を拡げると、鮮やかな羽根は見えなくなったのか、すばやい飛翔に人間の動体視力では追えなくなったのでしょうか。できれば後者として捉えたいところです。
・一蝶の水に貼りつく足掻きかな
水溜りに落ちた蝶が必死に翅をばたつかせている姿を「足掻き」と表現しています。
翅をばたつかせる度に鱗粉は剥がれ落ち、その粒子が周囲の水面に浮いているでしょう。
「悪足搔き」という言葉の通り、蝶はやがて死を迎えます。
残酷な景ですが、俳人としての冷徹な視線を感じます。
〈作品8句『大和坐り』倉橋羊村〉
・水陽炎も映えて少女の藍浴衣
少女の清潔感を感じます。「藍浴衣」の柄は朝顔でしょうか。
時折、「水陽炎」を季語として用いる方がいます。「陽炎」とは現象を全く異にし、また歳時記の傍題にも見られません。
〈作品8句『薔薇の風』水田むつみ〉
・かの人を偲べと薔薇の濃むらさき
言われてみれば「濃むらさきの薔薇」には、陰性のメッセージを有しているかのようです。他の薔薇が多弁に美しさを競い合っている中、「濃むらさきの薔薇」は深く沈黙しています。この薔薇は、やがて内部に言霊を有し、呪詛めいた言葉をつぶやきそうです。
〈作品8句『砂漠の星』山陰石楠〉
(なし)
〈作品8句『丘の落暉』山元志津子〉
(なし)
〈作品8句『鳴いてすぐ』鳥居三郎〉
(なし)
〈暗唱句〉
植物
〈萍-三夏〉
・萍をしきりに送り舟の棹 石田勝彦 (☆)
・漂ふはなびくにあらず萍も 津森延世〈黴-仲夏〉
・かほに塗るものにも黴の来りけり 森川暁水
・黴匂ふ仏の千手意味無意味 平畑静塔
・黴のアルバム母の若さの恐ろしや 中尾寿美子 (☆)
・黴の世や言葉もつとも黴びやすく 片山由美子これで重要季語126、例句343です。
『角川俳句大歳時記』の重要季語は終わりました。
『新日本大歳時記』と『日本の歳時記』から「洩れ」を探してみます。
時候;「灼く」、「夜の秋」
天文:「五月闇」、「片蔭」、「旱」
地理;「滴り」、「卯波」、「土用波」
生活・行事;「行水」「髪洗ふ」、「鯉幟」、「菖蒲湯」、「端居」、「柏餅」、
「土用鰻」、「走馬灯」、「打水」、「早乙女」、「繭」
動物;「蜥蜴」
植物;「蕗」
と、21の季語の「洩れ」があります。多くは生活・行事の項です。
3つずつ片付けていきましょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿