2013年5月29日水曜日

【角川『俳句』6月号より⑥(終)】

〈Close Up ながさく清江句集『雪の鷺』〉

-新作5句-

・口ずさむ古き寮歌や夕桜


「桜」とりわけ「夕桜」と取り合わせた内容が、従前の範疇と異なりますが、それでいて一句をうまくまとめています。

女学生時代の寮歌をさんざん歌ったせいか、今でも憶えており口ずさんでいます。
昔を懐かしみつつ、過ぎた歳月に思いを馳せています。そうした心情を「夕桜」が反映し、支えています。

-『雪の鷺』自選20抄-

・あたたかや廻されながら壺生まれ


下五の「生まれ」が効いています。無から有を生み出す過程であり、アダムの肋骨からエバ(イブ)が生まれたことということも連想させます。


・朧夜や灯明尽くるとき匂ひ

・大綿や夕日しばらく野をぬくめ


・みづうみの遠くは日差す雪の鷺


伊藤通明氏が掲句を採っています。

叙景的で、一幅の山水画を見るようです。また遠近法もあり、湖は鷺の奧まで広がっています。枯淡とした景で、日本人の美意識を感じさせます。
中七の「遠くは日差す」は、連用止め「日差し」でも良い感じがします。

〈新鋭俳人20句競泳『藍深く』矢野玲奈〉


・丈少し短くしたる春の服

若い女性像を感じます。
中七の「したる」は、「したり」または「しては」でも良いかと思いました。

・引つ張れるセロリの筋や万愚節

季語の選択が良いと感じました。
上五「引つ張れる」がやや気になります。「伸びゐたる」などとするか、上五と下五を置き換えて「万愚説セロリの筋の引つ張りて」としても良いかと思いました。

〈新鋭俳人20句競泳『右向け右』髙勢祥子〉

・膨らますどの風船も同じ味

言われみればて当たり前なのですが、「味」という着地が意外で諧謔を感じました。

〈俳人スポットライト 『長良川鵜飼』大谷櫻〉

・疲鵜や朝影の小屋戸を鎖さず

鵜匠の小屋の朝の静けさが伝わります。鵜匠は小屋に出入りしていますが、それぞれの箱の疲鵜は、夕方の猟にそなえ体力の回復をじっと待っているようです。この景にも「もののあはれ」を感じます。

〈俳人スポットライト 『桜月夜』中川靖子〉
(なし)

〈俳人スポットライト 『桃の花』曽根富久恵〉

・何よりの母の元気や桃の花

「桃の花」という季語の本意・本情をよく把握していると感じました。
「桃の花」は「桜」と違い、「鄙びた花」です。また「秋の風」同様に、どの内容にも即きやすく(「即き過ぎ」となり易い)、慎重さを要する季語です。
「桃の花」に対応する内容は人事が多くなりがちです。

〈俳人スポットライト 『芽吹山』大塚次郎〉

・利根川の水たんまりと芽吹山

お手本のようによくまとまった句と思いました。
「水」と「山」、水平と上方の視野の違いや、オノマトペ「たんまりと」が効果的です。

・一輪草二輪草とて徒党組み

言われてみればその通りです。「一輪草」「二輪草」と言われれば、視野狭窄を起こし、ついその花だけを見て詠んでしまいがちです。一般社会や世論にも通じるかも知れません。諧謔にして示唆に富んでいます。

〈暗唱句〉
天文〈旱-晩夏〉
・食べるより息する口や大旱            丸山海道      (☆)

地理〈土用波-晩夏〉
(なし)

生活・行事〈髪洗ふ-三夏〉
・髪洗ひたる日の妻のよそよそし          高野素十
・せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ         野澤節子      (☆)
・髪洗うまでの優柔不断かな            宇多喜代子
・をんなにも妻にもなれぬ髪洗ふ          信濃小雪

これで重要季語138、例句366です。

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